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静岡地方裁判所 昭和54年(行ウ)11号 判決 1984年4月27日

原告 株式会社 村上

被告 運輸大臣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五四年一二月二五日付で原告に対してなした廃油処理事業許可申請の却下処分はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は油類の製造、加工及び販売、液化石油ガスの販売並びに産業廃棄物の収集、運搬及び処分等に関する一切の業務を目的とする会社であり、昭和五一年四月二二日被告に対し、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(以下「海洋汚染防止法」という。)二〇条一項に基づき廃油処理事業の許可申請(以下「本件許可申請」という。)をしたところ、被告は昭和五四年一二月二五日付で原告に対し同法二三条一号に適合しないことを理由に右申請を却下(以下「本件処分」という。)した。

2  しかしながら、本件処分は次のとおりの違法事由があるから、取り消されるべきである。

(一) 海洋汚染防止法で定める廃油処理事業を行なおうとする港湾管理者及び漁港管理者以外の者に右事業の許可を与えないことは憲法の保障する職業選択の自由を制限、剥奪する行政処分であるうえ、海洋汚染防止法一条によつて廃油の適正な処理を確保することが義務づけられ、また、行政管理庁の行政監察に基づく勧告及びこれに対する運輸省の回答からも明らかなように、廃油処理施設の拡充と廃油処理事業者の新規参入は必要不可欠なものであるから同法二三条の許可基準上明白な問題点がない限り廃油処理施設が技術上の基準に適合する申請については原則として許可すべきであり、同法二二条の欠格事由のないのに不許可とすることは違法である。したがつて、右技術上の基準に適合し特に右許可基準上問題点のない本件許可申請につきなした本件処分には同法二三条の解釈適用を誤つた違法がある。

(二) 海洋汚染防止法二三条一号の廃油処理事業の開始が需要に適合するものであるか否かを認定するには対象海域に係る港湾の特性、対象船舶の種類、総トン数等から算出し推計した廃油発生量、換言すると既存の廃油処理施設の処理能力を決定した際に基礎とした廃油発生量を資料とすべきであつて、本件許可申請は右廃油発生量及び既存の廃油処理施設の処理能力等からして需要に適合するものであるにもかかわらず、被告は既存の処理施設の処理実績報告に基づく廃油処理量を資料として需要に適合しないと認定し本件処分をなしたものであるから、その前提事実について誤認がある。

(三) 海洋汚染防止法は既存の廃油処理事業者の保護を目的とする法律ではなく、海洋環境の保全等のために船舶及び海洋施設から海洋に油及び廃棄物を排出すること等を規制し、その規制を実効あらしめるため船舶内で発生する廃油の適正な処理を確保することを図つているのであるから、廃油処理施設が適正に運営されていることは目的達成上必須のことである。しかるに、静岡県内では既存の民間処理事業者は紅産業株式会社(以下「紅産業」という。)一社しかなく、しかも、右会社が委託契約等に基づき静岡県の処理施設を運営し、結果的に静岡県内の廃油処理事業を独占しており、良好なサービス、低料金で廃油を処理できる状況になく、多量の廃油が海洋に違法投棄されるのは必至であるといえるし、被告が海洋汚染防止法三三条一項に基づいて右処理事業者に対し事業の停止を命じたり、許可を取り消すことも事実上不可能であつて、このような観点から本件処分が同法の目的に反するものであることは明らかである。

(四) 被告は本件海域の船舶、漁船所有者等の海上関係業者から出された廃油処理の迅速化を要望する陳情や所管の東海海運局等の許可相当意見を無視し、新規業者の参入に反対する既存業者や地元代議士の陳情に迎合し既存業者の利益擁護のために本件処分をなしたもので、その動機に不正がある。

(五) 原告は産業廃棄物である廃油の処理施設を有し、その処理業者として充分な実績があり、既存業者と差別される合理的理由がないのに、被告は既存業者と不当に差別して本件処分をなした。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項冒頭の本件処分に違法事由があるとの主張は争う。

(一) 同項(一)の主張は争う。海洋汚染防止法二〇条一項の廃油処理事業を許可制とした趣旨は廃油の適正な処理の確保及び廃油処理事業の適正な運営を実現することにあり、同法二三条の許可基準の解釈適用にあたつては廃油処理需要の予測、処理施設の処理能力等について専門的、技術的、政策的見地から総合的に考察することが必要である。したがつて、廃油処理施設が技術上の基準に適合する申請については原則として許可すべきであるとする原告の主張は、同法二三条の規定を空文化させるものであつて、主張自体失当である。

(二) 同項(二)の事実中被告が本件処分をなすにあたり海洋汚染防止法二三条一号の廃油処理事業の開始が需要に適合するか否かを認定するのに既存の廃油処理施設の処理実績報告に基づく廃油処理量を資料としたことは認めるが、その余は否認する。右需要適合を認定するにあたり、廃油処理施設の処理能力決定の際に基礎とした廃油発生量の推計数量を資料とすることは、海洋汚染防止法施行前あるいはその直後のように同法四八条一項に基づく廃油処理事業者からの廃油処理実績報告がない場合にはやむを得ないけれども、船舶から発生する廃油の量は船型、船種、総トン数、運航形態及び運航中の気象条件等により大幅に異なるため、これを船舶の入港隻数等で推計することは困難であるし、不確定要素が多く、その推計数量をもつて現実の廃油発生量とみるのは適当でない。したがつて、本件のように既存の廃油処理施設の廃油処理実績報告が得られる場合には、その処理実績報告に基づく廃油処理量を資料として需要を認定することには十分な合理性がある。

(三) 同項(三)の事実中静岡県内において既存の民間処理事業者は紅産業一社であることは認めるが、その余は否認する。一般に、需要適合性が許可基準となつている公共性の高い事業については、結果として独占的状況になることも予想されるが、既存業者に対しては、廃油処理料金の認可及び廃油処理についての差別的取扱いの禁止(同法二六条)、廃油処理の引受義務(同法二七条)、廃油処理設備への立入検査(同法四八条四項)等の監督規定により独占によつてもたらされる弊害を排除できることとなつている。したがつて本件許可申請に係る事業対象区域内において民間処理事業者が一社しかないとしても、そのことから直ちに本件許可申請を許可しなければならないとはいえない。また、被告が右既存業者に対し海洋汚染防止法三三条一項各号に該当する事由があるとしてその事業の停止を命じたり、許可を取り消すことがあつたとしても、静岡県の廃油処理施設は県自ら運営するか他の業者に委託すれば足りることであり、廃油の適正な処理について支障をきたすことはない。

(四) 同項(四)の事実は否認する。原告主張の海上関係業者の陳情に対しては行政指導により廃油処理の迅速化がなされた。また、本件許可申請についての東海海運局等の意見は行政庁内部の参考意見にとどまり、被告がそれに拘束されるいわれはない。

(五) 同項(五)の事実中原告が産業廃棄物である廃油の処理施設を有していることは認めるが、その余の事実は否認する。原告が主張する廃油処理施設の存在や産業廃棄物処理業者としての実績は本件処分理由とは直接関係がない。

三  被告の主張

本件処分は次のとおり海洋汚染防止法二三条一号の需要適合が認められず適法である。

静岡県内には紅産業の廃油処理施設が清水港にあるほか、静岡県が港湾管理者又は漁港管理者として海洋汚染防止法二〇条二項の届出をした廃油処理施設が清水港と焼津港にある。そして、これら廃油処理施設の廃油処理実績報告に基づく廃油処理量はその処理能力に比し極めて過少であり、その稼動率も廃油処理施設の全国平均を大幅に下回つている。すなわち、右処理施設の昭和五一年ないし昭和五三年度の稼動率は一・六ないし三・二パーセントと低く、その処理能力に相当余裕があり、右廃油処理実績報告からみた要廃油処理量に対し充分対応できる状況にあり、既存業者の経営は必ずしも良好でなく、右のような状況下に新規業者の参入を認めるとすると不必要に処理能力を増加させるばかりでなく、その稼動率の低下により廃油処理のコストが上昇し、既存業者の経営内容を悪化させるとともに経営基盤を弱体化させて事業の継続が困難となり、ひいては廃油の適正な処理を確保することができなくなる虞があつた。このように、本件処分当時供給(廃油処理能力)に対する要廃油処理量が少ない需給状況にあつた。なお、昭和四八年以降の石油危機による経済事情の変動に伴い廃油処理量が全国的に減少し、また昭和五三年のタンカーの安全及び汚染の防止に関する国際会議において採択された「一九七三年の船舶からの汚染の防止のための国際条約に関する一九七八年議定書」で積荷重量四万トン以上の現存原油タンカー等に対し分離バラストタンクの設置を義務づけるなど廃油発生量を極力抑制することを要求しているため、わが国の海運業界も右に適合するような船体の構造改善等に着手し、今後要廃油処理量が減少していく傾向にあり、需要が急速に増大する状況にはなかつた。これらのことを考慮すれば、本件許可申請が同法二三条一号に適合しないことは明らかである。

四  被告の主張に対する原告の反論

被告主張のように稼動率を廃油処理施設の処理能力に対する廃油処理量の割合をもつて計算するにしても、紅産業は同一施設で船舶廃油とともに産業廃棄物である廃油を処理しているので、右両廃油を合算した処理量を基準にして計算しなければ正確な稼動率といえず、その処理施設にどの位の余裕があるのかも明らかとはならない。紅産業はその法人所得申告額からみると高い収益を上げているのでその稼動率は相当高いものと推定できる。更に静岡県清水港管理局発行の清水港統計年報によれば、昭和五五、六年の清水港の入港船舶総トン数は石油危機直前の昭和四七、八年頃に比べ約二〇パーセント増加しており、廃油発生量が減少したとはいえない。また、分離バラストタンクの設置により抑制されるバラストは産油国の積出港に放出されるものであるから、わが国においてその発生量が減少することにはならない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  まず、原告は請求原因2項(一)のとおり、海洋汚染防止法二三条の許可基準である廃油処理施設が技術上の基準に適合する申請については同法二二条の欠格事由がない限り不許可処分をすることは違法であり、本件処分は取り消されるべきであると主張するけれども、右主張は廃油処理事業を行なおうとする者に対し同法二三条に一号から四号までの基準を掲げてその各号に適合していると認めるときでなければ廃油処理事業の許可をしてはならないことを定めた同条の規定内容に照らし到底採用できない。

三  次に、海洋汚染防止法二三条一号に適合しないとの理由で本件処分がなされたことは当事者間に争いがないので、本件許可申請が同号に適合しないものであるか否かについて検討する。

原本の存在とその成立に争いのない甲第二号証の一ないし七、第二三号証、成立に争いのない甲第三、四号証、乙第一一、一二号証の各一、二、第一三号証、第一八号証、第二一、二二号証、第二四号証、第二六号証、証人鷲頭誠の証言により真正に成立したものと認められる乙第一ないし第五号証の各一ないし四、第六号証の一、二、第七ないし第九号証の各一ないし四、第一〇号証の二、三、証人鷲頭誠、同内田格の各証言によれば、原告は廃棄物の処理及び清掃に関する法律一四条一項の許可を得て肩書地で産業廃棄物である廃油の収集、運搬及び処分等の業務を行なつていた者であるが、右産業廃棄物処理業の既存施設を利用し、主として静岡県内の港湾、漁港等を事業対象区域とし、ビルジ、バラスト、タンク洗浄水、スロツプオイル及びコレクトオイル等の船舶廃油処理事業を行なおうとして昭和五一年四月二二日付で被告に対し本件許可申請をしたこと、当時、静岡県内には自家用廃油処理施設を除き海洋汚染防止法二〇条の許可を受け又は届出をした廃油処理施設が三箇所、すなわち民間処理事業者である紅産業の廃油処理施設が清水港に、港湾管理者及び漁港管理者である静岡県の廃油処理施設がそれぞれ清水港と焼津港(以下「清水港処理施設」「焼津港処理施設」という。)に存在し、清水港処理施設、焼津港処理施設はともに紅産業が昭和五一年から同五四年頃にかけて県との委託契約あるいは県知事の使用許可に基づいて運営していたこと、右県内の処理施設において処理可能な廃油の種類は、清水港処理施設ではビルジ及びバラスト、焼津港処理施設ではビルジ及びその他の廃油(主としてコレクトオイル)であり、紅産業の処理施設では右種類の廃油の外タンク洗浄水、スロツプオイル及びスラツジ等船舶から発生する殆んどの廃油を処理できる態勢にあつたが、現実に処理していた廃油はタンク洗浄水その他の廃油であつたこと、そして、右県内の廃油処理施設における昭和五一年から同五三年まで各年間の船舶廃油処理能力は、清水港処理施設が四五万トン、焼津港処理施設が二八八〇トン、紅産業の処理施設が五万四七二〇トン(油水分離能力のみ)であるところ、その右各年度における処理実績報告に基づく船舶廃油処理量は、別紙「廃油処理実績報告に基づく船舶廃油処理量」記載の合計総トン量のとおり、それぞれ清水港処理施設が一万四二四二トン、八八六九トン、四〇八四トン、焼津港処理施設が一三七〇トン、一五五七トン、一五六八トン、紅産業の処理施設が四九三トン、四九九トン、二六五七トンであり、したがつて、いずれもその廃油処理量はその処理能力に比べかなり低く、結果的に右県内の廃油処理施設の稼動率も規模の小さい焼津港処理施設を除き全国の各廃油処理施設の平均稼動率をはるかに下回つていたこと、清水港における昭和五四年から同五六年までの各年度の内航の石油類タンカー入港船舶隻数・総トン数は、それぞれ三三九一隻・一七〇万四六一二トン、三一九八隻・一六三万六〇六九トン、三〇九二隻・一五二万五三二五トンであつて、隻数・総トン数とも漸次減少傾向にあること、右同年度の外航の入港船舶隻数・総トン数は、それぞれ二六隻・一八六万六三〇八トン、三四隻・二一九万三四七三トン、三二隻・二〇八万五二〇七トンで、その原油タンカーの入港船舶隻数・総トン数は、それぞれ一二二隻・一八九万一八一四トン、一七八隻・二三三万六一六二トン、二九五隻・三四八万五五九四トンで、いずれも増加傾向にあるものの昭和五三年のタンカーの安全及び汚染の防止に関する国際会議において採択された「一九七三年の船舶からの汚染の防止のための国際条約に関する一九七八年議定書」では、積荷重量二万トン以上の新造油タンカー、積荷重量三万トン以上の新造プロダクトキヤリア並びに積荷重量四万トン以上の現存原油タンカー及び現存プロダクトキヤリアに対し分離バラストタンクの設置を義務づけ、また積荷重量二万トン以上の新造油タンカーに対し原油タンク洗浄システムの設置を義務づける等して廃油の発生を抑制することが要請され、近時わが国の海運業界においてもそのような船体への構造改善がなされつつあることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定の事実によれば、原告が廃油処理事業者として処理しようとする船舶廃油の種類はすべて既存処理施設で処理できるものであるし、既存処理施設の処理実績報告に基づく廃油処理量はその処理能力をはるかに下回り、その処理能力には相当余裕があつて、原告が予定している事業区域内の要廃油処理量に対し充分対応できる状態にあり、しかも今後タンカー等の船体の構造改善による廃油発生量の減少に伴いその要廃油処理量も減少することが予想され、このような状況で新規業者の参入を認めると、廃油の適正な処理を確保することができなくなる虞があつたこと、更に、昭和四八年以降原重油の取引が停滞し、それに伴い船舶廃油の要処理量も全国的に減少し、その急速な増大は直ちに期待できない状況にあること等の事情を併せ考えると、本件許可申請は海洋汚染防止法二三条一号に適合しないものといえる。

ところで、原告は請求原因2項(二)のとおり需要適合を認定するにあたつては廃油処理施設の処理能力を決定する際に基礎とした廃油発生量を資料とすべきであるのに、被告は既存処理施設の廃油処理量を資料としたもので本件処分には事実誤認がある旨主張する。しかしながら、原告主張の廃油発生量は船舶の入港隻数やその総トン数等に基づいて算出された推計数量であつて、船舶から発生する廃油の量は船型、船種、船令及び総トン数はもとより、その運航形態や運航中の気象条件等によつても具体的に異なるから、右推計数量は不確定要素が多く、船舶廃油処理量が具体的に把握できないときならばともかくとして、前記認定のように既に海洋汚染防止法四八条一項に基づき既存の廃油処理事業者から廃油処理実績の報告がなされてきているのであるから、被告において右報告に基づく船舶廃油処理量と既存の廃油処理施設の処理能力等を専門的、技術的、政策的見地から総合的に検討し需要の適合を認定することは合理的方法といえる。

四  原告は請求原因2項(三)のとおり静岡県内において民間処理事業者が一社で、しかも右会社が委託契約等に基づき静岡県の廃油処理施設を運営し、事実上県内の廃油処理事業を独占していること等をとらえて海洋汚染防止法の目的に反すると主張する。しかしながら、前記三で認定した事実によれば、静岡県内では民間処理事業者が紅産業一社で、右会社が委託契約あるいは県知事の使用許可に基づき静岡県の廃油処理施設を運営しているけれども、右処理施設の事業主体は静岡県であつて、右会社がこれを利用しているにすぎないし、港湾管理者又は漁港管理者以外に既存業者が一社しかないとしても、船舶廃油処理事業は、一般に巨額の間接費、固定費を要し、しかもその処理料金を市場の需給関係によつて適正に決定できない要因があるから廃油処理施設の適正な配置、運営並びに公害の防止等海洋汚染防止法の目的達成のためには廃油処理事業を私企業間の自由競争に委ねることは妥当ではなく、船舶廃油の処理につき需要に適合していると認められない限り新規業者の参入が阻まれ一定地域において既存業者に事実上独占的地位が付与されることとなるのもやむを得ないことといわねばならない。ただ、その場合にも独占によつてもたらされる弊害を排除するため海洋汚染防止法には既存業者に対する廃油の処理料金及び処理の引受条件の認可(同法二六条)、廃油の処理の引受義務(同法二七条)、報告の徴収(同法四八条)等の監督規定が置かれているのである。したがつて、本件許可申請に係る事業対象区域内において既存業者が紅産業一社しかないとしても、そのことから直ちに被告が右申請に対し許可をしなければならないものとはいえない。また、仮に紅産業に対し海洋汚染防止法三三条一項の事業の停止又はその許可の取消の規定が適用されたとしても、右会社が運営する静岡県の廃油処理施設は他の業者に委託するなどし、また右処理施設で処理できないタンク洗浄水等の廃油については、他県の処理事業者に処理を委ねる等して廃油を支障なく処理できる。したがつて、原告の右主張は採用できない。

更に、原告は請求原因2項(四)及び(五)のとおり本件処分につき動機の不正及び平等原則違反を主張するけれども、被告は前記認定の事実関係に基づいて本件処分をなしたもので、その際原告主張のような不正な動機があつたとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はないし、原告が平等原則違反の前提として主張する廃油処理施設の存在等の事実は本件処分理由と関係がないから、主張自体失当である。

五  以上によれば、被告が本件許可申請に対し海洋汚染防止法二三条一号に適合しないことを理由に本件処分をなしたことは適法であり、裁量の範囲を逸脱し、濫用があつたということもできない。

よつて、本件処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄 山本哲一 山崎勉)

(別紙)

廃油処理実績報告に基づく船舶廃油処理量

区分

年度

ビルジ

(トン)

バラスト

(トン)

タンク洗浄水

(トン)

その他

(トン)

合計

(総トン量)

紅産業の処理施設

五一

四九三

四九三

五二

四九九

四九九

五三

六九一

一、九六六

二、六五七

清水港処理施設

五一

八、三九一

五、八五一

一四、二四二

五二

六、八五五

二、〇一四

八、八六九

五三

二、七七六

一、三〇八

四、〇八四

焼津港処理施設

五一

一、一四三

二二七

一、三七〇

五二

一、三〇三

二五四

一、五五七

五三

一、三四六

二二二

一、五六八

五一

九、五三四

五、八五一

七二〇

一六、一〇五

五二

八、一五八

二、〇一四

七五三

一〇、九二五

五三

四、一二二

一、三〇八

六九一

二、一八八

八、三〇九

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